ポリスキャット!!

Mr.X

 にゃあにゃあ
 タマがヒラヒラと飛んできた蝶に、ちょっかいを出し始めた。
「ほら、あっち行け。捜査の邪魔だ」
 訓練士の西島がタマの前に出て蝶を追い払う。
「先輩。本当に大丈夫なんですかね? ネコで」
 同行していた若い刑事・小倉は、目の前で蝶を追って小躍りしているネコと西島を見て、ため息を漏らした。
「しょうがないだろ。生き物平等協会のマダムたちが、犬だけに警察犬をやらせるのは不平等だってお偉方に抗議したんだから」
「それにしてもネコって」
 タマは思うようにつかまらない蝶に飽きたのか、道端の日陰に入り毛づくろいをはじめていた。
「ここまでするのにはずいぶん苦労したんだぜ。こいつら自分の好きなことしかやらないからな」
 西島はタマの寝転ぶ日陰に入ると、タマの頭を優しく撫でながら、今までの苦労を語った。
 人よりはいいとしても犬よりは劣る嗅覚の話や、それでも犬は元々オオカミで、ネコもトラやライオンの仲間なんだから、警察犬の真似事が出来ないはずはないと、無理やりポリス・キャット計画を押し付けられた話の他、いきなり殺人事件などの凶悪犯罪は危険だからと、今回の駅前宝石店強盗発砲事件に初めて駆り出された話が口を衝いた。
「発砲事件ですから、そこそこ危険ですけどね」
「ネズミ小僧を捕まえるのはネコの役目だろって、親方たちもマダムの猫なで声には弱いよな。そのクセ身内には容赦がない」
 西島が当時を思い出すかの様に、遠い目をした。
「あれ? そういえばもう一匹のチャカは、どこに行った?」
「さっきまでパトカーに載せたヘルメットの中で、丸くなってましたけどね」
 言いながら小倉もタマの寝転ぶ日陰に入り、西島と一緒にタマの体を撫で始める。
「それにしてもチャカとタマって、いくら警察っぽい名前と言っても、うまくつけましたね」
「そうだろ。こいつら行ったっきり帰って来ない時があるから、まさに鉄砲玉なんだよ」
 西島に答えるかのように、タマが横たわったまま長い尻尾をまっすぐに上へと立てた。
 目を閉じてやる気の無さそうなタマを見て、小倉がつぶやく。
「お手上げですかね?」
 一瞬、時が止まるかのような和やかな空気に包まれたが、小倉の携帯電話が一気に緊張を高めた。
「何だって、チャカが犯人を追い詰めた?」
 西島はタマを抱きかかえて飛び出していた。

 強盗犯はアパートの一室に立てこもり、アジトを見つけたチャカは、パトカーに載せたヘルメットの中で丸くなっていた。
「人質をとって立てこもっている?」
 西島が現場の状況を聞いている間に、タマがアパートの中に入っていくのが見えた。
「あ、待てタマ」
 タマがわずかな隙間を通って室内に入る。
 覆面をした強盗犯が物音に気づいて銃を構えた。
 にゃあ。
「なんだ。ネコか」
 その一瞬を見逃さなかった。タマを追って入ってきた西島が、構えを解いた強盗犯に飛び掛り、事件は落着した。
 数日後、小倉が西島を訪ねた。
「先日はお疲れ様でした。西島さんの苦労が形になって、表彰されたそうですね」
「いやいや、結局株を上げたのは生き物平等協会のマダムたちでね。おかげで新たなチームも誕生したよ」
 応接室で深々とソファに身を沈め対面する二人は、共通の達成感を感じていた。
「ネコにだって出来たじゃないですかって言われると、もう反論できないよな」
 笑いながらお互いが背もたれに身を預けた時、勢いよく扉が開き、若い訓練士が駆け込んできた。
「大変です西島さん。ポリス・キャットが新任のポリス・バードを襲っています」
 言い終わらないうちにその頭上を通ってハトが集団で室内に飛び込み、それを追ってタマが訓練士を土台に、獲物めがけて大ジャンプを見せた。
 にゃおおおん。
「檻だ。檻をもってこい」
 西島が飛び出すようにソファから立ち上がって叫んだ。
「ダメです。どちらかを檻に入れるなんて不平等なことはできません」
 その後、応接室はネコとハトによって、殺人現場のような修羅場と化した。
  
 おしまい

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