文章探偵 ~皮肉も過ぎると憎くなる~

文章探偵
 必ず文章のどこかにヒントが隠されている。
 そのヒントを見つけ、作品に隠された真相を暴いてやる。

 駅前の書店に入ると、30歳ぐらいで黒縁の眼鏡をかけ、髪をポニーテールに結んだ女性が、本に目を通していた。ここで注意しておいて欲しいのは、ポニーテールだ。このポイントを覚えておこう。
 さらに店内を見回すと、女性の向こう側で柱に潜んでスマートフォンを構えている少年がいた。
 後日、この写真を見せて先生の反応を楽しもう♪ということらしい。が、言葉が足りないのではないかと思われた。そう少年に指摘した所『これは、よくあることで、昨日、何処どこで見たぞとか何々していたろうとかで、相手から驚きとか何らかのリアクションがあると思うのですが、それが切っ掛けで会話が弾んだりとかね』と言うのであるが、ここでは、学校にいる時とは違う『素』の先生の様子を撮って、その表情の違いやしぐさの違いを、クラスのみんなで比べてやろうと思って、などと『何故』撮ろうとしたのかの『心境』が描写されていると、後々効果的なのではないかと思われた。

 その他にはレジの所に店員が二名いるだけで、この二人は、店内の様子には関心が無い様だった。
 そんな緩慢な空気を感じたのか?事も有ろうに女性は、今まで手にしていた本を音も無くと閉じたかと思うと、スルリと肩から提げていたトートバックに滑り込ませた。
 柱に隠れていた少年には気づかなかったようだ。そのまま何食わぬ顔で店を出て行く。
 少年はしばらくスマートフォンを構えたままだった。
 その表情はわからなかったが、知り合いと言うことで、さぞかし驚いたことだろう。
 女性が出て行ってから五分ほどして、少年は店員にその事態を告げた。
『ポニーテール。黒縁の眼鏡。30歳前後の女性。まんびき』
『何故もっと早く言わなかったのか?』
 可哀想に少年は店員になじられている。
 それにしても何故顔がハッキリとわかってしまうポニーテールなのか?まさか店側を油断させるためにポニーテールなのか?などと言いながら。もう一人の店員は店の奥に消えた。防犯カメラのチェックでもするのだろうか?
 その後、盗まれた本は『青少年の犯罪・心の闇』というタイトルだとわかった。
 盗んだ女性は30歳前後ということで、何故に青少年の?と店員たちは頭をひねっていた。
 そんなことも、少年は作文に書き込み、将来はこういう悪を許さない刑事になりたいのだと、その日、本屋にいてスマートフォンに失態を記録された女性教師に提出していた。
 女性教師は何日か前に、生徒たちに将来どうなりたいかを作文に書いてくるよう宿題を出していたようだ。

 以上のような作品があり、そのタイトルが『皮肉』である場合、その要素はどこにあるのか?となると、一つは教師が授業の一環として作らせた作文が、自らの教師失格を告発する文章だったこと。
 もう一つは、ゆくゆくは刑事として悪に対峙しようとする少年が、教師の万引きを見逃し、脅迫するかのような作文を書いていること。
 もう一つあるとすれば、盗撮という卑劣な行為で、教師の万引きという卑劣な行為が糾弾されている所だろう。
 
 注目ポイントとなるのは、少年の心変わりではないだろうか?はじめはどんな気持ちだったものが、万引きをきっかけにしてどう変わったのか?
 作者は少年の当初の気持ちを『後日、この写真を見せて先生の反応を楽しもう♪』としか書いていない。それを読んで『これは、よくあることで、昨日、何処どこで見たぞとか何々していたろうとかで、相手から驚きとか何らかのリアクションがあると思うのですが、それが切っ掛けで会話が弾んだりとかね』と思って欲しいようだ。
 だが『後日、この写真を見せて先生の反応を楽しもう♪』にはいろいろな含みを感じることが出来る。
○ もともとこの少年は女性教師が嫌いで、何か弱みを見つけてやろうと盗撮に及んだ。
○ 女性教師に気に食わない宿題を出された仕返しに、何か弱みを見つけようと盗撮に及んだ。
○ 少年は人を見る能力に長けていて、この怪しい女性教師は何か妖しいことをやるだろうと踏んでいて、こっそりとその姿を撮影していた。
 このような憶測で解釈されないためにも、ここはしっかりと少年の気持ちを書いておくべきではないだろうか?
 素の様子を撮るべく盗撮に及んだと。この『素の様子』という所を書くことで、さらに教師の万引きの深さ(学校でのストレス=教員同士の付き合いや生徒PTAなどとの関係から来るストレスなど)を想像させ、文章に厚みが出てくるような気がする。

 この作品において心境の変化はとても重要な部分だと思う。
 その心境の描写が『これは、よくあることで、昨日、何処どこで見たぞとか何々していたろうとかで、相手から驚きとか何らかのリアクションがあると思うのですが、それが切っ掛けで会話が弾んだりとかね』という『よくあることだから書かない』なんていうのは、作家にむいてないよね。と思う文章探偵だった。

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